スキームの圏におけるモノ射に関するメモ

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モノ射の性質はちょっと考えれば結構よくわかるっぽいことに気づいたから気づいたことのメモをします。


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圏論の一般論からくることに関しては割愛します。
たとえば「 X\to Y がモノ射 ⇔ X\times _YX\to X が同型」とか、「モノ射の合成はモノ射」などは特に断りなく使います。


【命題1】
f:X\to Y をスキームの射とします。
f が埋め込みならモノ射です。

〔証明〕
開埋め込みと閉埋め込みのときに示せば良いので、まずは開埋め込みとします。
g,g':X'\rightrightarrows X を取り h=f\circ g= f\circ g' とします。
このときまず g,g'位相空間の間の射として等しく、次に f^{-1}\mathcal{O}_Y\xrightarrow{\sim} \mathcal{O}_X \rightrightarrows g_{*}\mathcal{O}_{X'} の合成が層の射として等しいので g,g' は構造層の間の射も等しいです。
次に閉埋め込みのとき、同じく g,g' を取れば位相空間の間の射として等しく \mathcal{O}_Y\to f_{*}\mathcal{O}_X \rightrightarrows h_{_*}\mathcal{O}_{X'} の合成が層の射として等しいですが \mathcal{O}_Y\to f_{*}\mathcal{O}_X全射なのでこれから g=g' です。 ◻︎

アフィンスキームの間のモノ射は環のエピ射に対応します。
次はよく知られていることです:

補題2】
A を環、\mathfrak{p}\in \mathrm{Spec}(A) とすると A\to A_{\mathfrak{p}} は環の圏のエピ射。

〔証明〕
A_{\mathfrak{p}}\to A_{\mathfrak{p}}\otimes _A A_{\mathfrak{p}} のレトラクション(=掛け算) A_{\mathfrak{p}}\otimes _A A_{\mathfrak{p}}\to A_{\mathfrak{p}} は同型です。 ◻︎

【系3】
 X をスキーム、x\in X を点とすると \mathrm{Spec}(k(x))\to X はモノ射。

〔証明〕
まず開埋め込みはモノなので x のAffine近傍からの包含 \mathrm{Spec}(A) \to X はモノ射です。
次に補題1より \mathrm{Spec}(A_{\mathfrak{p}_x})\to \mathrm{Spec}(A) はモノ射です。
最後に閉埋め込みはモノ射なので \mathrm{Spec}(k(x))\to \mathrm{Spec}(A_{\mathfrak{p}_x}) はモノ射です。
あと \mathfrak{p}_x は点 x に対応する素イデアルです。 ◻︎

【系4】
x_1,\cdots ,x_r \in X を相異なる点とすると、\coprod _{i=1}^r \mathrm{Spec}(k(x_i)) \to X はモノ射です。

〔証明〕
f,g:T\to \coprod _{i=1}^r \mathrm{Spec}(k(x_i)) を取って i:\coprod _{i=1}^r \mathrm{Spec}(k(x_i)) \to X との合成が等しいとします。
ある点 t\in Tf(t)\neq g(t) なら i(f(t))\neq i(g(t)) なので矛盾します。
よって位相空間の射として f=g です。
従って系3よりスキームの射としても等しいです。 ◻︎

スキームのモノ射が位相空間の間の単射を引き起こすことを示します。

補題5】
K を体とすると、環の射 K\to A がエピ射なら同型。

〔証明〕
A\to A\otimes _K A は環の同型ですが K\to A は忠実平坦なので K\to A 自身も同型です。◻︎

(注)
体の圏のエピ射は同型とは限りません。
たとえば純非分離拡大はエピ射です。

【系6】
X\neq \emptyset とすると X\to \mathrm{Spec}(K) がモノ射なら同型。

〔証明〕
X の任意のアフィン開集合は補題5より \mathrm{Spec}(K) と同型です。 ◻︎

【系7】
f:X\to Y がモノ射のとき、
(1) 位相空間の射として単射、とくに f は準有限射。
(2) 任意の y\in Y に対してfiberは X_y \cong \mathrm{Spec}(k(y)) または X_y \cong \emptyset
(3) f は普遍的に単射
(4) f が有限表示なら不分岐。

〔証明〕
モノ射のpullbackはモノ射であることと系6からわかります。
また不分岐は X\to X\times _YX が同型であることからもわかります。◻︎

【系8】
X\to Y が有限表示かつ平坦なモノ射のとき開埋め込み。

〔証明〕
有限表示平坦射は開写像なので X\to YY の開部分集合の上への単射です。◻︎

平坦は開っぽい感じの条件ですが、閉っぽい感じの条件と組み合わせます。

補題9】
環の射 A\to B が有限射かつエピ射なら全射

〔証明〕
有限生成 A-加群 B/A0 であれば良いので、各素イデアル \mathfrak{p} について k(\mathfrak{p})\to B\otimes _A k(\mathfrak{p}) 全射になれば良いですが、これは補題5から従います。◻︎

【系10】
X\to Y がproper射かつモノ射なら閉埋め込み。

〔証明〕
モノ射なので準有限射ですがproper射なので(Stein分解を考えることで)とくに有限射となり、補題9より閉埋め込みです。 ◻︎


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スキームの圏にはpullbackがあるのでモノ射の性質はそれなりにわかるっぽいですが、エピ射の方は難しそうです。



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以前の記事
貼り合わせに関するメモ - yujitomoのブログ
でGrassmannianのPlücker埋め込みについて言及したのですが証明はしてませんでしたので、ここで示しておこうと思います。

【Plücker埋め込み】
S をネータースキーム、 \mathcal{E}S 上ランク n の局所自由層、r自然数とします。
このときランク r の商 \mathcal{E}_T \to \mathcal{F}r外積を取ることで直線束への商 \bigwedge ^r \mathcal{E}_T\to \bigwedge ^r \mathcal{F} が出て、この対応により射 j:\mathrm{Grass}(r,\mathcal{E}) \to \mathbb{P}(\bigwedge ^r \mathcal{E}) が出ます。
このとき、射 j は閉埋め込みです。

〔証明〕
まず層の射 \mathfrak{G}rass(r,\mathcal{E})\to \mathfrak{G}rass(1,\bigwedge ^r \mathcal{E})単射となることを言います。
TS-スキームとして、二つの同値でない商 p_1,p_2:\mathcal{E}_T\to \mathcal{F}_1,\mathcal{F}_2 を取ります。
このとき核が異なるので、ある点 t\in T において k(t)\otimes \ker (p_1) \neq k(t) \otimes \ker (p_2) となります。
k(t)\otimes \mathcal{E}_T の基底を k(t)\otimes \ker (p_1) 内から n-r x_1,\cdots ,x_{n-r} 取り、残りの ry_1,\cdots ,y_r のうち一つが k(t)\otimes \ker (p_2) に入るように取ります。
すると r外積を取った商 \bigwedge ^r \mathcal{E}_T \to \bigwedge ^r \mathcal{F}_1,\bigwedge ^r \mathcal{F}_2 は点 t 上で異なる核を持つことがわかります(なぜなら y_1 \wedge \cdots \wedge y_r\bigwedge ^r \mathcal{F}_2 では 0 に写り \bigwedge ^r \mathcal{F}_1 では \neq 0 に写るからです)。
よってこの二つの商は同値ではなく、射 j:\mathrm{Grass}(r,\mathcal{E}) \to \mathbb{P}(\bigwedge ^r \mathcal{E}) はモノ射です。

proper射であることを付値判定法で示します。
 R をDVR、K をその商体として、可換図式 \begin{CD} \mathrm{Spec}(K) @>>> \mathrm{Grass}(r,\mathcal{E}) \\ @VVV @VV j V \\ \mathrm{Spec}(R) @>>> \mathbb{P}(\bigwedge ^r \mathcal{E}) \end{CD} を取ります。
\mathcal{E}_R = E と置いておきます。これはランク n の自由 R-加群(に対応する自由層)です。
射に対応する商を p:\bigwedge ^r E\to R, q:E\otimes _RK \to N とおきます。ここで N はランク r の自由加群p\otimes _R 1_K = \wedge ^r q です。
つまり可換図式
\begin{CD} \bigwedge ^r E @>\subset >> \bigwedge ^r E\otimes _RK \\ @V p VV @VVV \\ R @>>\subset > \bigwedge ^r N \end{CD} ができます。
付値判定法でproper射となることを示すには、ランク r の商 p':E\to N'p=\wedge ^r p' , q=p'\otimes _R 1_K となるものが構成できれば良いです。
まず E\subset E\otimes _R K \xrightarrow{q} N の像を N' と置けば、これはランク r の自由 R-加群です。
p':E\to N'全射で、p'\otimes _R1_K = q になります。
すると \ker p = E\cap \ker ( \wedge ^r q ) = E\cap \ker ( \wedge ^r p'\otimes _R1_K) = \ker (\wedge ^r p') となって p,\wedge ^r p' は同値な商です。
よってproper射であることもわかりました。

最後に、モノ射かつproper射は閉埋め込みなので、j:\mathrm{Grass}(r,\mathcal{E}) \to \mathbb{P}(\bigwedge ^r \mathcal{E}) は閉埋め込みになります。 ◻︎